よく「海外では…」を枕詞に海外の企業が正しいと主張する人も目にすると思います。すべてが正しいわけではありませんが、実際に海外ではイノベーションが起きており、日本ではなかなか大きなイノベーションが起こせていない状況であり、海外の良いところを取り入れていく必要があります。
しかし、ただ取り入れるだけでは効果的とは言えません。日本と海外では法律・文化・教育等根本的な部分が異なるため、そのまま取り入れるだけでは逆にいびつな形となりマイナスの効果をもたらすリスクもあります。これを回避するには違いを知ることに加えその背景を知ることが重要です。
そこで本記事では、日本と海外のIT業界は何が違うのか、なぜ違うのか、その違いがどのような影響をもたらしているのか等、様々な視点で解説していきます。今回は人材編です。
日本のIT人材はSIerに所属している人が7割
2017年のデータによるとIT人材白書によるとIT人材がIT関連企業に従事する割合が7割以上と高く、欧米では5割以上(アメリカは約7割)の人がユーザー企業に所属しています。

出展:我が国におけるIT人材の動向 経済産業省
ユーザー企業とは、システムやソフトウェアを利用して業務を効率化したり、データを管理したりする企業のことです。例えば、銀行が顧客の口座情報を管理するためのシステムを導入する場合、その銀行がユーザー企業となります。
なぜ海外と異なるのか
なぜこのような構造になっているのか、その要因のひとつに雇用における法律・考え方の違いがあります。
メンバーシップ型とジョブ型
日本はメンバーシップ型雇用で海外はジョブ型雇用といった話は昔からよくされています。詳細な話をすると長くなりますので別途しますが、ここで一番大きく関わってくるのは終身雇用の考え方です。海外は職務(ジョブ)で契約していますので仕事が必要なくなれば契約の解除ができますが、日本は正社員の場合、総合職(メンバーシップ)として契約するケースが主流であるため、仕事がなくなっても別の仕事を与え企業に所属する形となります。
ユーザー企業においてシステム開発のようなプロジェクトは常に存在しない
システム開発は規模の大小によりますが早ければ1ヶ月で終わるプロジェクトがあるように、常に開発の仕事がユーザー企業にあるわけではありません。そのため、終身雇用が根付いている日本においてはユーザー企業がIT人材を正社員で雇うことはあまりメリットがありません。そのため、必要な時に依頼できるシステム開発をはじめとしたITサービスを専門とする企業に需要が生まれ市場が広がっていったと考えられます。
そのため、そもそもシステムインテグレーターといわれる企業が日本に多く存在していることから、必然的にIT関連企業に従事する人の割合が多くなるのが現状です。
IT関連企業にIT人材が多いことによる影響
先ほどの話で言うとユーザー企業はIT人材を抱える必要がないため、ある意味で言えばリスクを回避することができている状態です。しかし、イノベーションを生み出せるか?といった観点でこの問題を考えると、答えはNOになります。
顧客価値に疎い日本のIT人材
ユーザー企業は顧客価値の拡大を目指しIT化やDXを目指していきます。海外ではユーザー企業にIT人材が所属し同じ目的や目標に取り組みますが、日本の場合は必ずしもそうではありません。ユーザー企業の要望に応えることが目的となり、ユーザー企業の顧客を満足させる感覚に海外のIT人材と比較し疎い傾向にあると考えられます。

ITリテラシーの低い日本のユーザー企業
IT関連企業に所属するIT人材が顧客価値に疎くなる一方で、ユーザー企業側にも課題があります。それは、ITに関することはIT関連企業に丸投げになることからくるITリテラシーの低さです。さらに良くない傾向にある企業はIT関連企業やIT人材対する価値を低く見ていることです。
IT人材は顧客視点を磨き、ユーザー企業はITリテラシーを高める
これまで、IT業界における日本と海外の違いを人材の観点で述べてきましたが、終身雇用といった社会性・法律といった企業が変えていくことが不可能な領域を考えてもあまり意味はないと私は考えています。重要なのは企業がどのような人材を育てるか、どのようにIT関連企業と関わるか、ユーザー企業と関わるかです。間違いなく言えることはIT人材は大局的にビジネスを捉えエンドユーザー(ユーザー企業の顧客)を意識すること、ユーザー企業の人材はITに対しての知見を深めIT関連企業やIT人材との信頼関係を構築してくことが重要だということです。
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